2024年4月18日、経済産業省物流企画室長中野様と、政府の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の委員を務めておられたローランド・ベルガーのパートナー小野塚様をお招きし、「物流政策パッケージ」に関するウェビナーを開催しました。
本記事では、ウェビナーの内容を主要なポイントに絞ってご紹介します。ウェビナーにご参加いただけなかった方も概要をご覧いただける内容となっています。
登壇者紹介

当日は上記3名が登壇いたしました。
各々の専門分野の情報をもとに物流業界の最新動向と物流政策パッケージの実践方法について講演いただきました。
「物流の2024年問題」等への対応について(中野様講演パート)
直近の物流業界について
物流業界はこの約20年間ほどで貨物1件当たりの貨物量が半分に減っている一方で、物流件数が倍増しており小口化が顕著に進んでいる状態です。
その結果として、貨物自動車の積載率が4割を切っていると言われています。これは6割空気を運んでいると言えるような、非常に低い積載効率です。では積載率を上げればいいのではないかと思われるかもしれませんが、解決が簡単な問題ではないのです。

トラックドライバーの年間労働時間は全産業平均より2割ほど高いにも関わらず、年間所得額は全産業より1割ほど少ない水準となっています。2024年度からはトラックドライバーの労働時間制限が年間690時間に制限されました。NX総合研究所の試算によると、このままでは、2024年度には14%の輸送能力が不足するという結果が出ています。さらに2030年には34%運べなくなると予想されています。発荷主種別で見ると、特に農林水産業の輸送能力不足の割合は3割ほどで最も不足が懸念されています。
物流の適正化・生産性向上にむけた政策
2023年6月2日に、政府は荷主・物流事業者にむけて物流の適正化・生産性向上の取り組みガイドラインを示しています。
発荷主と着荷主、物流事業者それぞれがやるべき事を示しています。ガイドラインで特に注目をされているのは、荷待ち・荷役の作業時間を減らす事です。

調査したところ、実は労働時間の平均3時間ほどを荷待ちと荷役の作業時間に割かれていました。これを減らして車を運転する時間を増やせば、2024年問題も怖くない状況をつくれるかもしれません。
しかしガイドラインを示したものの、実態は荷主側が荷待ち・荷役の作業時間を把握すらしてないのことが大半でした。まずは今かかっている時間を把握し、それから荷待ち・荷役の最大時間を減らすべきでしょう。目安としては、まずは2時間以内です。そして2時間以内を達成したら今度は1時間以内にする努力目標を掲げて頑張ってほしいと考えています。
荷主・物流事業者に対する規制的措置
物流効率化法を改正して、商慣例を見直すための規制的措置を行っています。この法的措置は発荷主と着荷主両方を含む荷主と、物流事業者にも課されるものです。
一定規模以上の事業者を特定事業者として指定し、中長期の計画の作成や定期報告を義務付けています。一定規模以上の基準については、法律が成立した後の施行の段階から1年かけて決まります。例えば荷主の場合では、取り扱っている物流の貨物の量・重量で一定の閾値を設け、年間何万トン以上などで一定規模の基準を作ることを想定しています。およそ3,000社ほどの事業者が特定事業者になると思われます。

中長期計画を政府に提出し、もし取り組みが不十分な場合は指導助言ではなく国が勧告を行います。勧告した会社の名前も公表されます。さらには勧告をしたにも関わらず物流改善が進まなかった場合は、命令。そして命令を無視した場合は罰則がかかります。
他の措置として、一定規模以上の事業者でかつ荷主には、物流管理統括者の専任を義務付けています。また荷主が取り組むべき措置の注目ポイントとして、荷待ち時間の短縮・荷役の短縮・積載率の向上の3つを掲げています。
人手不足を見据えた物流最適化の方向性(小野塚様講演パート)
2024年のその先を見据えた施策を
2024年問題は以前より話題になっていますが、今年を乗り切れば終わるという事ではありません。5年先、10年先を見据えて物流の最適化をしていかなくてはいけないのです。

革新の方向性を以下3つのステップにわけています。
①見える化
一体どこが非効率で無駄なのかが分からないと、手の打ちようがないのでまず見える化です。しかし実は物流費も含めた収支が見えてないことが結構あるのが実態です。実は大口顧客で荷待ち時間が発生しており、一番の赤字だったという例も実際にありました。
②変革の実行
見える化した課題に対して、こういうやり方をすればもっと最適な状況になるのだ、ということを実行します。国も様々な補助事業を展開しており、新しいシステムやサービスも生まれているので、うまく活用していくべきでしょう。
③仕組みの構築
ダイエットして痩せても、また食べて太っては意味がありませんよね。引き続き効率的な状況を維持することも大事です。実際、積載率は今年どうだったのか?来年は?今月は?と定期的な観察を行いましょう。
マインドチェンジも大事
従来の考え方に凝り固まらないことも大事です。荷主にとって物流の領域は本当に戦わなくてはいけないものなのでしょうか?本当に競合のトラックと一緒に運んでは駄目なのでしょうか?「うちはこうじゃないと」という考えが非効率を生んでいるのではないかと考えています。

物流にとって、やはりお客様に「良い品質の商品やおいしい食品などを届けること」が一番です。さらにお客様は安く届けてくれた方が喜ばれます。それなら自社だけのやり方に固執せず、もっと他社のリソースを使って効率化することができるのではないでしょうか。
今までは、歯を食いしばって頑張ります、売上をあげます、というやり方をしていたかもしれません。しかし結局は何よりも、一番利益が上がることが大事なのではないでしょうか。大手なら利益が上がる方が株価があがるでしょう。
「その方が効率的でしょ」といえるようなマインドチェンジをしていくべきです。
新しい最適な仕組み、最適なサプライチェーンというものを作り上げた会社がこれからを生き残る会社になるでしょう。ぜひこの2024年問題を危機と捉えるのではなく、チャンスと捉えていち早く手を打ち、競争力のある会社になるという考えをもってください。
自動配車システムLoogiaの活用事例(松下講演パート)
Loogiaは荷主企業様や物流事業者様を中心に累計で200社以上の企業様にご利用いただいています。
大きくわけて自社配送ケースと委託配送ケースの2つを紹介します。

A社は時間指定やエリア分け、季節波動に基づいた荷量変動を元に数十パターンのシナリオ分析を弊社で行いました。
「Loogia」という配車システムをいきなり納品するのではなく、弊社のスタッフがいくつかシナリオ分析や配車プランを策定して「この場合だとこれぐらいコストインパクト出ますよ」「ただこれでは一部店舗様に対して少し時間指定の緩和が必要ですよね」などを議論して1つ1つのダイヤを策定していくという事を行いました。
結果としてDCあたり1,000万から4,000万のコスト削減に成功しました。
D社は、委託していた配送を自社化し、EV化を行った事例です。
全体最適を行ったことでコストが削減するだけではなく、買い物をしたお客様に対する配送品質も向上する事で売り上げに繋がりました。
これは、物流コストを下げるだけでなくPLのトップラインに寄与し企業価値に繋げられたと言えます。
委託配送の場合の活用方法

F社はTMSの配送管理の入れ替え時に、弊社が携わらせていただきました。
販売店への納品頻度と納品物流のコストの見直しで活用いただき、シナリオごとのコストを分析し、運賃計算システムを共同開発しました。
荷主であるG社は運送会社の社長を巻き込んで三社協議を行いました。
台数削減が見込めそうだという試算があり、運送会社の社長も含めてLoogiaの配送ルートを採用するという合意形成を実現しました。
食品メーカーとしては物流コストの削減ですが、運送会社からすると売り上げが減る話になってしまいます。しかし運送会社側もマイナスに捉えるのではなく、空いた車両で新しい案件を運ぶことができ営業利益の改善に繋がると判断いただいたことで、対峙しやすい運送会社と荷主が共に効率化に成功した事例です。
さいごに
いかがでしたでしょうか。本記事はあくまでセミナーの一部をまとめたのみですが、物流業界の現状や政府の動き、今の物流業界に求められている事と考え方を理解いただけたのではないでしょうか。
弊社ではこのように物流業界の方向けの情報発信をセミナー・記事などを通して行っています。下記よりお問合せいただくことで今後定期的な情報発信をいたしますので、ぜひ気軽にお問合せください。