2024年11月、船井総研ロジ株式会社 執行役員 コンサルティング本部 副本部長 田代 三紀子様をお招きし、弊社 代表取締役社長 松下 健とともに、物流政策パッケージの概要を振り返りながら、2024年を迎えたいま、改めて荷主企業に必要とされる取り組みや行動変容について解説するセミナーを開催いたしました。
当記事では、弊社 松下が講演したセミナー第二部「荷主企業が主体で取り組む物流改革事例の紹介」について主要なポイントに絞ってご紹介いたします。セミナーにご参加いただけなかった方も概要をご覧いただける内容となっております。
【第二部】 荷主企業が主体で取り組む物流改革事例の紹介
弊社サービス「Loogia」の概要と活用方法

はじめに、弊社サービス「Loogia」について、具体的な活用方法も含めてご説明いたします。
弊社では従来、自動配車に特化してサービス提供を行っておりましたが、現在では物流全体、輸配送全体の最適化に向けて、受注から検証・改善の工程に至るまで幅広くサービスを展開しております。データのインテグレーションから配車作成のアルゴリズム、ドライバーアプリ、動態管理や分析など、さまざまなプロダクトを提供しております。
Loogia配車作成

まずは、Loogiaによる配車作成についてご説明いたします。
Loogiaにデポや車両情報、配送情報などのデータを入力いただくことで、「どの車両が、どの訪問先を、どの順で、どのルートでまわると最も効率的か」を計算することができます。出荷や店着時間など、細かい制約条件を設定して計算することも可能です。
また、日々の配車業務に活用するだけでなく、「1 時間バッファを2時間バッファにすると、どうなるのか」「30分前出しにすると、どのくらいのコストインパクトが出るのか」など、物流改善の意思決定のための計算ツールとしてご活用いただくこともできます。
ドライバー配送支援アプリ・動態管理・ナビゲーション

ドライバー配送支援アプリは、「最適計算をした配車計画で、実際に配送を行うことができているのか」といった実態把握を行うことができるアプリケーションとなっております。さらに動態管理を活用いただくことで、「計画に対して現在どこまで配送が完了しているのか」「ドライバーは今どこを走っていて、どこで滞留しているのか」といったことも確認いただくことができます。
ここでポイントとなるのは、実態把握から入るお客様もいらっしゃいますが、仮に動態管理を用いて今いる場所の確認ができたとしても、「どういった想定に基づいて今その場所にいるのか」「計画に対して進んでいるのか、遅れているのか」ということがわからないと、今の状態が良いのか悪いのか、サポート要員を派遣する必要があるのかないのか判断することは難しいということです。そのため、弊社では可能な限り不確実要素を排除した状態で配送計画を立て、「計画通りに進んでいるのか、それとも想定していたよりも荷待ちや荷役作業の時間が多くなり、遅れた状態となっているのか」など確認ができるようにしています。
また昨今では、運送会社様においても人材流動性が高まっており、なかにはドライバーの約3割から4割が入社から2年以内という企業様もいらっしゃいます。そのため、弊社では新人ドライバーの方を支援する、ナビゲーションのサービスも提供しております。
アナリティクス

アナリティクスは、荷主企業様、運送会社様双方にご活用いただいているプロダクトです。分析を行うことで数字ベース、ファクトベースで議論ができるようになるため、荷主企業様と運送会社様の間を取り持つツールとしてもご活用いただいております。
Loogia配送先カルテ

Loogia配送先カルテにつきましては、活用事例の一つとして荷主企業様が主導となり物流改善を行うケースが挙げられます。例えば、これまで配送を委託していた運送会社様との交渉が決裂しそうなので、料金交渉が成立する新たな運送会社様に切り替えたいと発荷主様が考えられているようなケースです。こうした場合に往々にして起こり得るのが、それまで運送会社様に全てを一任していたために、納品方法を含めた付帯業務の情報がブラックボックス化しており、着荷主様に関する情報が全く集積できていないという問題です。そのような事態を防ぐためにも、どのように配送が行われているのか、発荷主様側でもデータベース化しておくことが重要となります。
シミュレーション代行サービス「BPaaS」

弊社は配車アルゴリズムを提供しておりますが、実は毎日ルートが変わるというお客様は少なく、いわゆるBtoBの店舗配送を行っているお客様の方が多くいらっしゃいます。そうした場合はシステムをそのまま導入するのではなく、お客様からいただいたデータを基に弊社のスペシャリストがLoogiaを使用してシミュレーションを行い、意思決定のための材料をお渡ししています。
「配送コストの最小化を図りたいが、チャーター便もしくは路線便を使った場合にそれぞれどのくらいコストが変動するのか」「労働基準を考慮する場合、どの部分を外部に委託しなくてはならなくなるか」など、荷主企業様主導で物流改革を行う際に重要なポイントとなるような点についてもシミュレーションが可能です。
帯最適化

荷物の積み合わせや発着地の相性はもちろんのこと、コース単位でどのような組み合わせが相性が良いのか、どの企業と相性が良いのかをダイナミックに計算することができるツールもございます。昨今では共同配送やM&Aの動きも活発化しておりますので、こちらをご活用いただくことで「ここと組んでもそこまでコストインパクトはなさそうだ」「こちらと共同配送すると効果がありそうだ」などといったシミュレーションも可能となります。
荷主企業様における、物流改善に向けた足元の行動変容

ここからは、弊社サービスをご利用いただいている荷主企業様の物流改善について、5つの課題を例に挙げてご説明いたします。
課題1:ブラックボックス化により改善方法が見出せない
1つ目は、3PL企業様や元請運送会社様に配送を一任しているがゆえに、配送の工程がブラックボックス化している事例です。このようなケースにおいては、改善を図りたい、改善に向けた報告書等を出さなくてはならないといった場合にも、そもそもどこをどのように改善すれば良いのかわからないという事態に陥ってしまうことがあります。
弊社ではこのようなご相談をいただいた際には、まず「現況診断」というものをさせていただいております。例えば、3PL企業様もしくはその先の運送会社様から現状の日報を送っていただき、「何時何分にどこに配送をしているのか」「何台で稼働していて、積載率はどのくらいなのか」ということを明らかにした上でデータに変換し、Loogiaを用いて計算を行います。その後、弊社、荷主企業様、運送会社様の三者で集まり、元の配送データとLoogiaの計算結果との差分について議論を交わします。
そうすると「ここは12時着指定のはずなのに、なぜ毎日11時半に着いているのか」「いや、12時着の時間指定なんて聞いていませんよ」などというように、発荷主様側が知らなかった条件が現場に課されていたり、実は運送会社様に重要な情報が届いていなかったりということが判明する場合もございます。
また、配車権自体を荷主企業様側に集約することで課題解消を図ろうとする動きも大きくなっています。配車権を集約することで発荷主様が改善の主導権を獲得し、ネットワークの再編に向けた条件緩和の交渉を運送会社様や3PL企業様、さらには着荷主様側に行うといったケースも増えてきております。
例えば、「出発時間を早め早めにと考え7時には出ているが、本当にこれは7時出発の必要があるのか」「10台車両があれば、8台目から10 台目は9時出発でも良いのではないか、9時出発ならドライバーの出勤も5時半ではなく8時で良いのではないか」というように、現実的なところまで踏み込んで荷主企業様と運送会社様でお話をされているケースもございます。
そのほかにも、店着時間の緩和に関しては着荷主様側と時間指定についての交渉が必要となり、自社で全ての店舗を運営されているケースとフランチャイズを展開されているケースとでは進めやすさが大きく異なります。
まず、自社で運営をされているケースでは、マーケティング部のような店舗運営側の意思決定者の方と交渉を行う必要があるかと思います。そういった場合、これまでは運送事業部の方が立場が弱く、要望がなかなか通らないということもあったかと思いますが、現在は情勢も変化しておりCLOの台頭もございますので、比較的社内における交渉力は高まっているのではないかと考えております。
問題となりがちなのはフランチャイズを展開しているケースで、店舗様側からすると店着時間の変更にメリットはなく、明確な到着時間がわからない場合には荷受け専門のスタッフを確保する必要性も出てきてしまいます。そうした場合、「荷受けスタッフのコストはどちらが持つのか」「店着時間の緩和によるコストインパクトは荷主企業側にメリットがあるだけで、店舗側は我慢するだけになるのではないか」というような声が上がることも考えられます。
では、このようなケースにおいて実際にどのような交渉が行われるのかといいますと、「コストインパクトが出たうちの何パーセントかは店舗側にも還元をする」「荷受けスタッフのコストについては一部負担をする」というような提案を行う企業様もいらっしゃるようです。このような局所的な見方だけをしてしまうと、コストや業務変更による負担が増えただけのように感じるかもしれませんが、グループ全体としては定量的に見ても合理性があると判断され、実行されている企業様も多くいらっしゃいます。
また、こちらは一番王道といえるのではないかと思いますが、荷主企業様が配車権を集約することで車両台数の削減を実現した事例もございます。
これまで15台で配送していたものを順番を変えたり、道を変えたり、時間を変えたりすることで、13台で配送することが可能になったというものです。このような場合、これまで15台でチャーター契約をしていたものを13台に変更する、つまり運送会社様側からすると売上の減少につながるため、「13台では運べない」という声が上がることも当然考えられるかと思います。
では、実際にはどのように交渉を進めていったのかというと、荷主企業様が「13台で運べることがわかったため、来月からは13台で運んでほしい。ただ向こう1年間は15台分の費用を払いますので、残りの2台分については1年かけて新しい仕事を取ってきてください」というようにお話をされたそうです。
そうすることで、運送会社様も売上げが足元1年間は変わることなく、逆に2台分の売上のアセットがありますので、それを基に1年間で新たな仕事を獲得することもでき、長期的には営業利益率が上がる結果となりました。
こちらの事例のように、短期目線では利害が一致しない場合でも、長期目線で考え、足元はどちらかが譲歩することで全体最適へとつながるケースもございます。
課題2:委託先運送会社の運行時間制限
次は、委託先運送会社様の運行時間制限の課題についてです。こちらに関してはドライバーの方のリソースを可能な限り運転時間に充てることが重要となるため、「宵積みスタッフと配送ドライバーの分離」が一つの有効な手段として考えられます。例えば、庫内作業を行う方が配車計画を基に事前に積み込みを行うことで、ドライバーの方は出社したら庫内の確認を行い運転席に乗ってそのまま出発するだけとなり、出発前の労働時間が限りなくゼロに近い状態となります。
しかし、ここで一つポイントとなるのが積み込み方法についてです。基本的には積み込みの段階で配車計画は自動で作成されていますので、先入れ後出しのロジックで積み込みを行えば良いのですが、例えば「ウィング車の場合はどうするのか」「積み合わせや重心をどのように考慮すべきか」「配送先の順番で考えれば奥に積んだ方が良いけれども、取り出しやすさや道路状況を考えると右側に積んだ方が良いのでは」というように、実際に配送を行うドライバーの方だからこそわかるナレッジをどれだけ加味できるかがポイントとなります。こうしたドライバーの方のナレッジは、最初の段階で形式知化させておくことが重要であるといえるでしょう。
中継倉庫の設置についてはよくあるお話かと思いますが、すべて直納していたところを途中でスループットを行い、労働時間の短縮を図るものです。
課題3:荷量増加を見据えたキャパシティ予見
3つ目の課題は、荷量の増加に伴う物流コストの増加に不安を感じ、ご相談いただいた事例です。このようなご相談に対しては、荷量が増えた場合のデータを投入し、現在の物流キャパシティでどこまで耐えられるのかというのをデジタルツイン的にシミュレーションするご支援をさせていただいております。
課題4:値上げの受け入れによる物流コストの増加
2023年以降、運賃の値上げを受け入れる荷主企業様は多くなっていますが、それをなかなか販売価格や売価に転嫁することは難しいというのが現状かと思います。
そうした中で物流コストの削減を図る場合には、配車の見直しによる台数削減を行うケースもありますが、くわえて「路線・チャーターの振り分け最適化」ということで、不採算のチャーターコースを路線便にお願いするという方法もございます。
また、スライド上には「料金計算システム」と載せておりますが、次のような事例もございます。
高速の利用を禁止しており、それゆえに定常的に残業が発生していた企業様に対し、高速に一切乗らずにこれまで通り残業をするパターンと、高速に乗れるだけ乗って早く配送を完了させるパターンとでシミュレーションを行い、どちらがよりコストが安くなるのか検証を行いました。
その結果、10コースあるうちの6コースでは、実は高速道路に乗って残業代の負担を減らした方が全体としてコストが安くなるということが判明しました。もちろん、ドライバーの方にとってはこれまであった残業手当がなくなることになりますので、そうしたインセンティブの課題については別途解決しなくてはなりませんが、荷主企業様の立場からすると高速道路を利用するのも一つの手段となり得ると明らかになった事例です。
他にも、例えば四国や出島のような地形をしている過疎地域においては「ここから先は全て共同配送にしましょう」といった取り組みも行われています。荷物の積み合わせのロジックによるものだけでなく、地域特性や地理条件をみながら共同配送を仕掛ける動きが進んでいます。
課題5:荷量変動/BCP対応による固定コストの見直し
5つ目の課題は、第一部の田代様のお話の中にもありましたので具体的な説明は割愛させていただきますが、納品頻度やリードタイム、在庫バッファの見直しについても足元大きく動いているという印象です。
配送コストと配送品質の関係

最後にこちらのスライドをご覧いただければと思いますが、荷主企業様が主体となって物流改善を行う際に必ず出てくるトレードオフとしては、これに尽きるかと思います。配送品質を高めれば高めるほど配送コストは重くのしかかってきますし、配送コストを削減しようと思えば、その分配送品質については一定妥協せざるを得ません。
「このトレードオフの関係をどこで着地させるのか」を着荷主様や運送会社様と議論し交渉していくことが、重要なポイントであるといえるでしょう。
さいごに
当記事では、弊社 代表取締役社長 松下より解説いたしました「荷主企業が主体で取り組む物流改革事例の紹介」についてポイントをまとめてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
弊社では、物流業界の方向けの情報発信をセミナー、記事などを通して行っております。下記の最新情報ページに各種お知らせやお役立ち記事を掲載しておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
https://loogia.jp/news/