2024年4月、船井総研ロジ株式会社 物流HRグループ グループマネージャー 松尾様より「物流業界のこれからとAI活用事例」について、弊社 プロダクトセールスチーム 統括マネージャー 古田より「AI自動配車システムの導入事例」についてご紹介するウェビナーを開催いたしました。
※サムネイル画像では齊藤様が登壇者となっていますが、当日は急遽松尾様より講演いただくこととなりました。タイトル画像と異なる部分がございますがご了承ください
本記事では、ウェビナーの内容を主要なポイントに絞ってご紹介いたします。ウェビナーにご参加いただけなかった方も概要をご覧いただける内容となっております。
【第1部】物流業界のこれからとAI活用事例(松尾様講演パート)
物流業界を取り巻く環境と2024年の経営キーワード
はじめに、昨今の物流業界を取り巻く環境について、運賃水準や物量動向、運輸業の倒産動向などをみながら解説していきたいと思います。
第一に運賃水準の動向についてですが、新型コロナウイルス流行前の2020年1月以前と比較して、いまだ低い水準で推移を続けていますが、徐々に回復傾向にあるといえます。スポット運賃相場の下落は、物量の減少と事業者数の増加による影響とみられますが、12か月移動平均を表す赤い折れ線グラフをみると右肩上がりとなっており、徐々に回復傾向にあるといえます。こちらの図に載っているデータは2023年10月までとなっておりますが、2024年に入ってからも徐々に上昇しております。
次に物量の動向についてですが、こちらは輸送トン数でみています。こちらもコロナ前と比較するとコロナ後はおよそ15%減少していることがわかります。徐々に回復基調とはなっていますが、依然として低い水準にあるといえます。コロナ収束後も物価高、円安の影響が大きく、消費マインドも低下しているため、生産量が減少しその結果、物量が減るという状況にあると考えられます。
運輸業の倒産動向については、倒産件数でみるとリーマンショック時と同水準で急増しています。小零細企業だけでなく、中企業、車両の保有台数でいうと50から100台ぐらい保有している企業でも倒産する企業が増えています。要因としては、人件費の高騰や求人難によるところが大きいと考えられます。
こうした中で経営難を防ぐためには、生産性の向上を図り、確実な人材確保が可能となるよう、標準的な運賃を獲得し利益が出るような経営を行っていく必要があるでしょう。
人手不足の問題は深刻化しており、人手不足倒産の件数もかなり危機的な状況にあるといえます。将来的には物量に対し運輸業の働き手が足りずに、荷物が運べないという事態に陥る可能性も考えられます。
ここで、DXと売上・利益の関係についてご説明します。上の表は無形固定資産比率を基にした営業利益率の調査結果です。無形固定資産はITに対する投資額の大きさを測る指標の一つとしても用いられます。
「無形固定資産比率別にみた売上高営業利益率」をみると、まず製造業では上位1/3は7%、中位は7%、サービス業でみると上位1/3が11%となっており、ソフトウェアやITに投資をしている企業の方が営業利益率が比較的高くなっているということが数字で見て取れます。
また「無形固定資産比率別にみた営業利益予想」をみると、製造業は上位1/3で98%、サービス業では中位で92%となっており、営業利益とDXは相関関係にあると考えられます。
AIの活用事例
次に、AIの活用事例をご紹介いたします。
近年では、AIを活用した事業の展開やさまざまなシステム構築を行う企業も増えてきました。運送会社様の場合にはバックオフィスや営業部門、また安全管理の面でAIを有効に活用することができます。
まずはAIの活用領域についてご紹介します。
8つの活用領域がありまして、AI自動配車やAIが搭載されたドライブレコーダー、AI-OCR、AI画像認識や物量予測。また、AIの積載効率測定や見積もりAI、Chat GPTなども物流業界で活用することができると考えられます。
一つ目の活用事例として、採用におけるチャットボットの事例を紹介します。
こちらは清水運輸様で実際に活用されているものです。チャットボットを用いて、面接で想定される質問に対しあらかじめ回答を作成・提示しておくことで、求職者は事前情報を収集しやすくなり、採用のミスマッチを事前に防ぐことができます。
次は物量予測AIを活用した事例です。
A社様では、物量について過去の閑散期や繁忙機のデータを参考にAIを活用しながら予測を行ったところ、約9割が的中し、平均±10%で予測可能という結果を得ることができました。
最後に、安全管理・事故防止に関する事例を紹介します。
AIドライブレコーダーを活用することにより、事故の予防や教育強化、映像確認の時間削減が可能となります。例えば、実際の事故には至らない危険運転、ヒヤリハットの段階で、潜在的危険シーンのみを切り取ってその映像を確認することができます。「ここ今日危なかったね」「もう少しこうしたところに注意して運転した方がいいよ」というのを日々映像を見ながら指導することができ、実際の事故発生防止に大きく役立つとされています。
AIの活用、デジタル化に向けて
AIの活用に向けては、データ管理、データ連携について考えていく必要があります。また、こうしたデジタルシフトを進めるためには、トップダウンで推進を図ることが重要となります。
DXがうまくいかない企業の特徴としては以下の四つが考えられます。
一つ目としては「デジタルですべて解決しようとする」というもので、初めから100%を目指そうとして費用も時間もかかってしまうというケースです。
二つ目は「ボトムアップで進めようとする」ということです。現場任せでデジタル化を進めようとすると、現場ではこれまでと変わらないほうがやりやすいためデジタル化が進まず、そのままの体制が継続されてしまう可能性が高くなります。
三つ目は「ダブルスタンダードを残す」というものです。デジタルに一元化できずにこれまでのやり方も残す、例えばスマートフォンでの回答に変更したが紙による提出も可能というような方法を採ってしまうと、管理がしづらくなり余計に手間がかかってしまいます。
四つ目は「コスト削減が一番の目的となっている」という場合です。コスト削減以外の効果やメリットを把握し、あくまでも生産性向上のために行うものであると考える必要があります。
最後に、デジタル化のプロセスについて解説いたします。
図の左側のペーパーレス化から始まり、テックタッチ強化、データ化、データ連携、データ活用へと進み、最後にDXの実現へと続くという流れが一番スムーズなプロセスであるといえます。
具体的な工程をお話すると、まずは紙をなくすところから始めて、スマホ化やオンライン化をしていく。そして、データをOCRで管理したり、RPAの活用やAPI連携を行っていく。データ活用の段階では、BIツールやAI配車システムの導入など、実務のところまでデジタル化を進めていく。その結果、DX化が実現し生産性や利益率が向上、業績が拡大し企業の安定的な存続が可能となる、というところまで逆算して取り組んでいくことがAIの有効な活用やデジタル化の成功へとつながっていくでしょう。
【第2部】AI自動配車システムの導入事例3選〜現場で起きた変化とは?~(古田講演パート)
「Loogia(ルージア)」の特徴
はじめに、弊社開発の自動配車システム「Loogia(ルージア)」の特徴について簡単にご説明いたします。
Loogiaは「組合せ最適化」技術を活用したアルゴリズムを用いて、「どの車両がどの訪問先をどの順で、どのようなルートで回ると最適か」を導き出します。例えば、使用する車両台数が最も少ない配送計画や、少ない車両台数で最も総稼働時間が短いルートなどをワンクリックで計算できるシステムとなっております。
運送会社様のみならず、幅広い業態業種の企業様にご活用いただけるサービスであり、近年では荷主様によるご利用も増えています。
導入事例
今回は荷主様の事例を一つ、運送業者様の事例を二つ、合計三つの導入事例についてご紹介いたします。いずれの事例においても、荷主様のみ、運送業者様のみで取り組まれたというものではなく、双方が連携を取ることで導入の実現へと至った事例となっております。
一つ目は、荷主であるユアサ商事様の事例となります。
ユアサ商事様では、自社便の積載率が低いこと、路線便のコストが高止まりしていることに課題を感じていらっしゃいました。自社便の積載率が低いという点に関しては、アナログな配車を行っていたため時間指定などの制約を考慮したルート作成に時間を取られ、効率的な配送計画の作成ができずに積載率が低い状態が続いていました。もう一つの課題である路線便コストの高止まりについては、自社便に組み込めない荷物を路線便に依頼していましたが、路線便は変動費となるため利益率が低くなる傾向にあり、路線便コストの高止まりが続く状況となっていました。
こうした中でLoogiaを導入する決め手の一つとなったのは、路線便から自社便への切り替えを行う際に必要とされる「計算結果の高い精度」がLoogiaにはあるという点でした。また、Loogiaの操作は極めてシンプルであり、デジタルツールに慣れていない現場の方にも比較的スムーズにご利用いただけるため、「誰でも簡単に使えるサービスである」という点も導入の決め手となりました。
Loogiaを導入した結果、これまで課題としてあった配送コストの削減が実現しました。路線便から自社便への切り替えを進めたことで自社便の比率が向上し、路線便の変動費が削減されたためです。
また副次的な成果として、配送リードタイムの短縮も実現しました。元々路線便の荷物の場合には即日の納品が難しく、基本的に当日注文したものは翌日以降の配送が最速となっていました。しかし、午前便・午後便と二便化し、どちらの便においても自社便の比率を高めることで、例えば午前中の注文を午後便で配送することが可能となりました。
こちらの事例のポイントとしては、荷主側であるユアサ商事様が運送業者様と専用プロジェクトを組んで専任体制でサポートされたことが円滑な運用構築へとつながったと考えられます。
二つ目は運送業者 N社様の事例となります。
食品配送を行うN社様では、Loogia導入前は配送コストの削減と配車業務の属人化が課題となっていました。配車業務の属人化については、N社様では元々2名体制で配車を行っていましたが、突発的な休みに対応できる体制ではないため改善したいというご意向がありました。
Loogia導入の決め手となったのは、訪問先ごとの時間指定や台車の回収、立地や軒先情報など「配車係の暗黙知も加味した配車が可能」という点と「誰でも簡単に使えるサービスである」という点です。
Loogiaを導入した結果、配送コストの削減と配車業務の脱属人化が実現しました。配送コストの削減については、コースを最適化することで積載率が向上し、これまで多ければ1日3便で配送していたところを3便目の配送先を1便、2便に吸収することで必要な回転数が減り、平均で月30万円程度の配送コスト削減が実現したという定量的な効果が出ています。配車業務の脱属人化については、Loogiaの導入により属人化が解消されたことで、(新たに配車ができる人材が2名増えて)4名体制での配車が可能となり、突発的な休みはもちろんのこと計画的な休みも取りやすくなるなど、従業員の定着にも寄与する効果が得られました。
こちらの事例では、荷主様と運送業者様、弊社の3社が密にコンタクトを取り、導入効果を数値で管理しながら進めたことが大きなポイントとなっています。
最後は、家具配送を行う拠点でLoogiaを導入いただいたタキザキロジスティクス様の事例となります。
タキザキロジスティクス様では、Loogia導入前は配車業務が属人化しているという点、配車業務に多くの時間を取られているという点が課題となっていました。
一つ目の課題である配車業務の属人化については、4名体制で配車業務を行っていましたが、荷主様別に担当者を分けていたため、自身の担当先以外の荷主様には対応できないという状況にあり、この点を改善したいというお考えがありました。
二つ目の課題である配車時間については、配送件数が1日50〜60件程ある中で、アナログ配車を行うことでルート作成に日々2、3時間も要していたため、自動配車を用いることで配車時間を短縮したいというご意向がありました。
Loogia導入の決め手は、「制約を加味した計画の作成が可能」という点と「計画作成にかかる時間が短い」という点です。「制約を加味した計画の作成」については、例えば駐車場に高さ制限のある配送先を含めた計画や過積載が起こらないような計画を作りたいという場合にも、Loogiaではこれらの制約を考慮し配送計画を作成することができます。
また「計画作成にかかる時間の短さ」については、Loogiaを活用することで、タキザキロジスティクス様では1日10分程度の計算時間で配送計画の作成が可能となりました。
導入効果としては、まず「配車業務の脱属人化」という点については、Loogiaを用いることでどの荷主様に対しても配車係の誰もが対応できるという体制を構築することができました。「配車時間の削減」という点に関しては、アナログの配車と比較して、配車時間を約50%削減することができました。
こちらの事例のポイントは、比較的デジタルリテラシーの高い配車係の方からLoogiaの利用を進めていったという点になります。その後、他の配車係の方に波及させたことで円滑な運用が可能となりました。また「誰もが配車業務をできる状態」というのは、運送業者様のみならず荷主様にとっての安心にもつながり、強固なパートナーシップの構築に大きく寄与するものであるといえます。
デジタル化ツールを活用するポイント
最後に、デジタル化ツールを活用する際のポイントを三つご紹介します。
一つ目のポイントは、あくまでも「デジタル化は目的に対する手段である」という認識を持つことです。
こちらに関しては、国土交通省が公開する「中小物流事業者のための物流業務のデジタル化の手引き」の中でも、デジタル化に向けたポイントとして「デジタル化に成功した事業者は、最初に業務課題とデジタル化によって実現したい姿を描いていた」と述べられています。
課題に対して目標を設定し、そのギャップをデジタルで埋めていくというのが適切な動きであり、「何のためのデジタル化か」ということをまずはしっかりと考えていく必要があるかと思います。
二つ目のポイントは「目標(KPI)を決めて取り組む」ということ、三つ目のポイントとしては「現場にまかせっきりにせず、強いリーダーシップを発揮する」ということです。
図の左側(オレンジ)の例では、営業と物流とバックオフィスとに組織を分けていますが、例えばこの物流の組織単体でデジタルツールを導入しようとした場合、物流チームにとってはコスト削減などメリットがあったとしても、他の営業やバックオフィスと利害が一致するとは限りません。物流チームではツールの導入を進めたいと考えても、営業やバックオフィス側を説得できずに断念するという事態が発生する場合も考えられます。このような組織の体制では連携は困難であり、個別最適状態となる可能性もあるでしょう。
では、そうならないためにはどのようにすれば良いのか考えると、まずは経営側もしくは組織を横断的にまとめるプロジェクト側からトップダウンで進めていく必要があるかと思います。組織を横断することで見るべき指標は会社全体の利益となり、全体最適で物事を考えられるようになります。共通の指標を用いることで、営業・物流・バックオフィスのいずれかがアクションを起こした場合にも、それは共通の指標を改善する動きとして捉えられ、さらに個人目標や成果へとつながる仕組みがあれば、従業員の方もより改善に向けた動きをしやすくなると考えられます。
さいごに
当記事では、物流業界を取り巻く環境やAIの活用、弊社システムLoogiaの導入事例などをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
弊社では、物流業界の方向けの情報発信をセミナー、記事などを通して行っております。下記の最新情報ページに各種お知らせやお役立ち記事を掲載しておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
https://loogia.jp/news/