2024年11月、船井総研ロジ株式会社 執行役員 コンサルティング本部 副本部長 田代 三紀子様をお招きし、弊社 代表取締役社長 松下 健とともに、物流政策パッケージの概要を振り返りながら、2024年を迎えたいま、改めて荷主企業に必要とされる取り組みや行動変容について解説するセミナーを開催いたしました。
当記事では、田代様に講演いただいたセミナー第一部「2024年を迎えたいま、取り組むべきこと」について主要なポイントに絞ってご紹介いたします。セミナーにご参加いただけなかった方も概要をご覧いただける内容となっております。
【第一部】 2024年を迎えたいま、取り組むべきこと
今回お伝えする内容は、次の3点となります。
まず1点目として、2024年問題から半年が経過した実態について、皆様の身近なところでどのような変化があったのか、改めてどのような取り組みが必要となるのかという点について、実際の企業様の取り組み事例も交えてご紹介いたします。
2点目としては、物流効率化の取り組みを加速するための施策について、「新物効法」の内容とともに解説いたします。
最後に3点目として、物流業界において今後取り組むべきことについてお話をさせていただければと思います。
2024年問題の現時点
2024年問題の論点として「トラックドライバーの時間外労働の上限規制」が挙げられるかと思いますが、現時点でどのような実態となっているのか、についてまずご説明いたします。
2024年4月より適用された「トラックドライバーの時間外労働の上限規制」とは、ドライバーの時間外労働の上限を年間で960時間以内とするものです。こちらを単純に12で割って1ヶ月あたりにすると、月におおよそ80時間の残業時間までに抑えましょうということになりますが、これは必ずしも毎月80時間以内にしなくてはならないということではなく、年間を通して960時間に抑えられるよう調整するというのが大枠のルールとなっています。
今は2024年の11月ですので、現時点で毎月の残業時間を80時間以内に抑えていた企業ではこれまでの残業時間の総計は560時間で、残りの月数で400時間に抑えれば良いということになります。しかし、毎月の残業時間が90時間となっていた企業では、残りの期間で年間960 時間以内に抑えられるよう管理をさらに徹底し、「時間」に影響する要素を見直す必要が出てきます。
2024年問題における影響と対応状況
では、ドライバーの「時間」に影響する要素とはどのようなものなのかという点についてご説明いたします。
当たり前のことではありますが「トラックを運転して荷物を運ぶ」というのがドライバーの本来の仕事ですので、ドライバーの拘束時間を短縮するためには運転以外の時間を削減していかなくてはなりません。では、運転以外の時間とはどのようなものになるかというと、荷待ち・荷役作業の時間がこれにあたると考えられます。そのため、効率化に向けては荷待ち・荷役作業の時間をゼロにできれば一番良いということにはなりますが、それは現実的になかなか難しいため、これまでより時間を短縮できるよう条件の緩和などを行う必要があります。
他にも、ドライバーの拘束時間短縮に向け、移動可能距離を短くするといった方法も考えられます。そもそもの長距離輸送を見直したり、長距離輸送が必要となる場合にもこれまでよりリードタイムを延長するなどして、ドライバーの拘束時間を短縮できるよう対応を行っていく必要があります。
2024年問題対応の事例
では、具体的にどのような取り組みをしていくべきかという点について、実際の事例を挙げて解説していきたいと思います。
まずは、荷待ち・荷役作業の削減・緩和に向けて、これまでのバラ積みからカゴ車へと切り替えを行った事例です。この事例のポイントは、手積みが必要な場合には荷主企業側で積み込み作業を行うとしたことです。
取り扱いの荷姿によってはカゴ車にそもそも入らない、もしくはカゴ車に入れることで非効率となるため、手積みが必要となる場合があります。そういった場合に、これまではドライバーが行っていた積み込み作業を荷主企業が積み込み要員を配置し、荷主企業側で積み込み作業を担うこととしました。そうすることで、ドライバーがトラックの荷台をバースにつけて積み込みが終わったらそのまま出発して、ということが可能となり、荷役作業の時間短縮、ドライバーの負担軽減が実現しました。もちろん、こちらは従来ドライバーが行っていた作業を荷主企業側が担うことになるため、荷主企業にとってはコストアップの要因となります。「運べなくなる」リスクや時間を超過してしまうリスクを考慮し、荷主企業側が対応を行う判断をした事例となります。
次は、従来はドライバーが行っていた積み込み前の検品作業を庫内作業員が実施することで、作業時間の短縮を実現した事例となります。ドライバーは配送順を考慮しながら積み込み作業を行うため、これまではその際に検品作業もドライバーが同時に実施していました。しかし、ドライバーが検品作業をせずにどんどん積み込み作業ができるのと、検品をしながら積み込みを行っていくのでは、やはり作業時間に大きな違いがあったため、検品作業を庫内作業員が担うこととしました。もちろん、そうすることで庫内作業員の業務は増えてしまいますが、ドライバーの残業時間に関してはこれまでより短縮することができたという事例になります。
最後は、納品先ごとに荷待ち・荷役作業の可視化を行った事例です。着荷主に対して条件見直しの交渉を行うためには、そもそもの現状把握ができていなければなりません。そのため、納品先ごとに出荷量の多い順にどのような納品条件になっているのか、それが交渉可能なものかということを検討し、まとめて一覧化しました。そうすることで着荷主に対する交渉が可能となり、削減が実現した事例です。
次に、長距離輸送の見直しとリードタイム延長についての事例を3つご紹介いたします。
まずは、当日受注の締め時間を当日16時から12時へと変更した事例です。締め時間の前でもすでに来ているオーダーについては準備を進めていましたが、やはり16時を締め時間としていた時には現場がバタバタと慌ただしくなっていました。しかし、締め時間を12時に前倒ししたことで、余裕をもって作業を行えるようになったという事例です。
次は、物流子会社主導で、当日受注から前日受注に前倒しを行った事例です。親会社である荷主企業側からは「これまではこの受注条件だからこそお客様が買ってくれていたのに、受注が前倒しになったら売上に影響するのではないか」といった声もありましたが、いざ運用してみると、ゼロとはいえませんが経営に大きく影響するようなことにはならず、むしろ物流現場側は残業も減り、働く環境も整って大きなメリットが得られる結果となった事例です。
最後はリードタイムの延長に関するもので、これまで翌日配送となっていたエリアについて、リードタイムを一日延長してもらえるよう荷主企業に依頼した事例です。こちらは物流企業側からの要請が多い事例ということでご紹介しました。
物流効率化を加速させるための「新物効法」
現在、さまざまな企業様が物流課題に対する取り組みを進められていますが、それでも物流の効率化が目に見えて進んでいるのかというと、そうとはいえないというのが現状です。そうした中で、物流の停滞を防ぎ社会インフラを守るためにも、物流の効率化をさらに加速させる必要があるということで、物流に関する法令の改正案が出されました。
今回は「新物効法」の中でも荷主企業を対象としたものにフォーカスしてご説明していきたいと思います。
まず、上の3つの取り組み内容、「荷待ち時間の短縮」「荷役時間の短縮」「積載率の向上」については、先程お話させていただいた「荷待ち・荷役作業の削減・緩和」の内容とまさにつながるものだと思われます。「方針・行政の対応」の欄をみると、荷主企業に対する指導・助言を行うとされており、荷主企業・物流企業問わず全ての対象者が、努力義務として物流の効率化を図るためにそれを阻害する要因を排除し、取り組みを進めるよう促すものとなっています。
今回ポイントとなるのは、下の2つの取り組み内容「物流効率化の計画作成」と「物流統括管理者の選任」で、「物流効率化の計画作成」とは上の3つの取り組み内容に対して中長期的な計画を策定し、それに関して定期的に報告を行うというものです。
さらに「物流統括管理者の選任」により、上の3つの取り組み内容に関する方針や管理体制の整備、計画作成の取りまとめなどを行う責任者を置くことが義務付けられています。この2つの取り組み内容に関しては、作成した計画や報告した内容に対して「もう少しこういった形で作ってほしい」「ここの部分が足りない」というような指導が入る場合もあります。
また、そのような指導を何度も行っていても改善されない場合や、そもそも計画や報告が提出されない、管理者が選任されていないといった場合には、社名公表や罰則、罰金が課される可能性もあります。
さらに、対象は特定事業者とされていますが、こちらはまだ明確な基準は定められていません。特定事業者というのは取り扱い物量が多く、物流全体に影響を与える度合いが大きい事業者のことを指すと思われますが、今後ある程度の基準が設けられ、その基準に達する事業者が対象となると考えられます。先日の国土交通省・農林水産省・経済産業省の合同会議で出された検討案の中では、この特定事業者の対象となるのは年間取り扱い物量が9万トン以上の事業者であるとされています。もちろん、まだ確定ではありませんが、「こういった事業者が対象となります」と発表されてから動くのではなく、今の時点で自社が該当するのか考え、先行して取り組みを進めていくのも良いかと思います。
また、今回は罰則のあるなしにも触れてお話をしておりますが、罰則があるから取り組むということではなく、自分事として捉えて物流の効率化を図る、社内に対しても啓発を行うということを進めていたただきたいと思っております。
なぜ「時間」に影響する要素が排除されないのか
物流の効率化に向けて、なぜこんなにも「時間」に関連する業務や取り組みが取り上げられるのかというと、「時間」に影響する要素の改善が必要であるにもかかわらず、その改善が進んでいないためです。では、なぜ改善が進まないのかというと、これは「商慣習が改善されないから」だと考えられます。商慣習とはどのようなものかというと、例えばドライバーが店舗の棚入れ作業まで行うことや、在庫量をカウントし報告を行うこと、当日受注・当日出荷・当日納品など、業界によっては当たり前とされていることも商慣習であるといえます。では、なぜこのような実態が発生しているのでしょうか。
商慣習発生の真の要因について考えるため、製造業を営む企業を例として発荷主と着荷主の関係性についてみていきたいと思います。
まず、国内のとある場所に工場を構える「製造業X社」があるとし、さまざまな調達先から原材料や資材の調達を行っていると仮定します。上図は、調達した原材料や資材を使って工場内で生産を行い、出来上がった製品を得意先へ納品するという、一般的な流れを示しています。
この調達部分を購買部の領域とした場合、発荷主となるのは調達先であり、製造業X社は着荷主として調達先に対して「資材をいくつください、何日までにください」というように依頼をすることになります。そのとき、着荷主であるX社は調達先に対して、一社で効率良く運んでもらうために「積載重視のバラ積みで運んでください」といった要望や「工場が始まる午前9時までに必ず届けてください」というような要望を出すことも考えられます。
一方で、販売部分を物流部の領域とした場合、この立場は逆転します。
製造業X社は発荷主で、得意先が着荷主となります。そのため、発荷主であるX社は、着荷主である得意先からのさまざまな要望に応えながら製品を納品しなければなりません。着荷主から「パレット納品にしてください」「午前9時の納品はなくしてください」というような要望があればそれに応じなくてはなりません。こうしてみると、「あれ、これはどこかで聞いたことがある話だな」と思われるのではないでしょうか。
つまり、発荷主・着荷主双方の立場で考えることが重要であるということです。それぞれに要望があるかと思いますが、どちらの立場にもなり得るということを認識した上で、どのように交渉をするべきか、本当にそのルールが必要なのかということを改めて見直していく必要があるといえるでしょう。
「発荷主」の取り組み事例
最後に、「発荷主」の取り組み事例をご紹介したいと思います。
こちらは製造業の企業様の事例となります。前提として、こちらの企業様では受注日が出荷日となっており、翌日午前中の納品が必須となっていました。こちらは、極めて遠方でない限り全国どこであっても翌日午前中納品を基本とする、厳しい納品ルールであったといえますが、他社がこのルールに従っていることもあり、自社だけがリードタイムを伸ばすというのは難しい状況にありました。
しかし、物流環境が変化する中でこれまでと同じサービスを5年先、10年先続けることが可能なのかと考えた際に、やはり今が改善する機会なのではないかと思い、取り組みを進めることとなりました。
この取り組みの大きなポイントは、業界団体へ申し入れを行ったことです。そうしたことで、業界ルールの新たな策定が行われ、納品先に対してもしっかりと文章を作成し説明を行ったことで、納品先の理解を得ながら条件の変更が可能となりました。
一つの企業が単独でできることは限られてしまいますが、この事例のように業界団体や他社と連携して活動することで変化を生み出すことも可能となるのではないでしょうか。
まとめ
最後に本日お伝えした内容をまとめますと、まず2024年問題に関しましては、「時間」に影響する要素の使い方を見直すことが重要であり、荷待ち・荷役作業の削減や時間短縮、長距離輸送の回避やリードタイム延長などの取り組みを進めていく必要があると考えられます。
次に法改正への対応については、2024年問題に対してだけでなく、物流停滞によるさまざまなリスクに対応するため、取り組みを進めていく必要があるのだと考えなくてはなりません。罰則や罰金、社名公表の対象となるか否かという点のみを考えるのではなく、企業経営に対するリスクを回避するためと捉えて、取り組みを進めていくことが重要となります。
最後に「発着荷主」に対する理解については、どの企業においても「発荷主」「着荷主」になり得るということを理解した上で、受注や納品の条件を改めて考えていく必要があります。「着荷主」への交渉については、社内・社外問わず関係者を巻き込んで交渉を進めていくことが重要であるといえるでしょう。
さいごに
当記事では、船井総研ロジ株式会社 田代様よりご解説いただいた「2024年を迎えたいま、取り組むべきこと」についてポイントをまとめてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
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