
温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」が世界的に求められる中、各企業が環境負荷低減に取り組んでいますが、物流業界は他産業と比較すると進捗が鈍く、早急な取り組みが必要であるとされています。当記事では、カーボンニュートラルの実現に向けた物流業界の現状や課題、企業の取り組み事例等をご紹介します。
物流業界におけるCO2排出の現状
2025年4月に国土交通省が公表した、2023年度の「運輸部門における二酸化炭素排出量」によると、日本全体のCO2排出量のうち、自家用乗用車や営業用貨物車などを含む運輸部門の排出量は1億9,014万トンと全体の19.2%を占めており、産業部門に次ぐものとなっています(1)。さらに、運輸部門におけるCO2排出量の85.7%を自動車全体が占めており、そのうち貨物自動車は38.3%と大きな割合となっています(1)。このことから物流業界の取り組みが日本の温室効果ガス削減目標の達成に大きな影響を及ぼすと考えられます。
また、現在の国内物流においては地理的特性・商習慣からトラック輸送が主流となっており、「国内貨物総輸送量のうち、トラックの輸送分担率はトンベースで約9割(2)」を占めています。こうしたことからも、物流業界でカーボンニュートラルを実現するためには、自動車、特にトラックなど貨物自動車から排出されるCO2の削減が必須であるといえるでしょう。
この他にも、物流業界におけるCO2排出の要因として、物流施設の電力消費も大きく影響していると考えられます。照明や冷暖房、荷物の搬送に用いる機器などが消費する電力はCO2排出につながるものであり、特に温度管理が求められる医薬品・食品系の物流施設では消費電力量が高く、省エネルギー化が急務とされています。
さらに、近年ではEC市場の拡大や即日配送といった消費者ニーズの高まりにより、物流量が年々増加しています。しかし、その利便性と引き換えに車両の運行数は増加しており、結果としてCO2排出量が増えるというジレンマを抱えています。
(1)参考:国土交通省.“「運輸部門における二酸化炭素排出量」”. 国土交通省. 2025年4月25日.https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html, (参照2025年6月11日)
(2)参考:公益社団法人 全日本トラック協会.“「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2024」”.全日本トラック協会 . 2024年9月20日.https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/yusosangyo2024.pdf, (参照2025年6月11日)

物流業界のカーボンニュートラル実現に向けた課題
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を吸収または除去することで、実質的にゼロにすることをいいます。日本は、2050年までにカーボンニュートラル実現を目指すとしており、2030年度には温室効果ガスを2013年度から46%削減するという目標を掲げています。また、カーボンニュートラルと並び「脱炭素」という言葉も頻繁に耳にしますが、こちらはCO2など温室効果ガスの排出量を減らしてゼロを目指すことを指します。温室効果ガス全体の排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの達成には、この脱炭素に向けた取り組みが不可欠とされており、具体的には、再生可能エネルギーへの転換や省エネルギー化、EVの普及、森林保全など、多岐にわたる分野での取り組みが求められています。
物流業界においても、車両の電動化やエネルギー効率の改善などカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが急務とされていますが、その実現には以下のようなさまざまな課題があります。
車両の電動化やインフラ整備の遅れ
カーボンニュートラルの実現には、車両の電動化が不可欠であるとされています。しかし、現状では貨物自動車の電動車(EV)や燃料電池車(FCV)への転換は進められているものの、航続距離不足や充電インフラの未整備、高額な車両価格など多くの課題が存在しています。
そもそも長距離輸送を担う貨物自動車は電動化との相性が悪く、大容量バッテリーの搭載による燃費や積載効率の悪化や長時間の充電などが普及を妨げる大きな要因となっています。また、EV充電ステーションや再生可能エネルギー活用施設の不足といったインフラ整備の遅れも普及を阻害する一因となっています。
中小企業のコスト負担
EVやFCVといった環境負荷の低い新車両への更新や再生可能エネルギー設備の導入、CO2排出量の可視化や削減に向けたIT技術の活用など、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みには相応の投資が必要となります。これらの新しい技術や設備は高額な場合が多く、特に経済的基盤が限られる中小企業にとっては大きな負担となります。日本の物流業界は多くの中小企業によって支えられているため、このような高いコスト負担もカーボンニュートラル実現の大きな障壁となっています。
サプライチェーン全体での連携
カーボンニュートラルの実現には、自社のCO2排出量だけでなく、原料調達から廃棄まで事業活動全体で生じる排出量を把握し削減に取り組む必要があります。企業間、そして企業と消費者とをつなぐ物流はサプライチェーンの要であり、この領域でのCO2削減は極めて重要です。その一方で、物流は出荷元から消費者まで多くの事業者が関わるサプライチェーンの一部であるため、一社だけの努力では全体のCO2排出量を効果的に削減することはできません。また、環境負荷低減とサービス水準の維持を両立させるためには、コスト面も含めて他部門や取引先との綿密な調整が不可欠となります。
こうした現状を踏まえると、カーボンニュートラル実現に向けたサプライチェーン全体での連携強化は、今後の物流業界にとって避けられない重要な課題であるといえるでしょう。
配送の効率化によるCO2削減
配送の効率化はCO2排出量削減に直結する重要な戦略です。配送そのものの効率を高めることで燃料消費を抑え、環境負荷を大幅に低減することができます。ここでは主な取り組みを3つご紹介いたします。
AI・IoTの活用によるルート見直し
従来、配送ルートはドライバーの経験や直感に頼って組まれることも多く、非効率なケースも少なくありませんでした。しかし、近年ではAIやIoTといったデジタル技術の活用により、最適なルートを自動で算出するシステムが広がりをみせています。例えば、AIを活用した配送ルートの見直しにより、トラックが走行する距離や燃料消費を大幅に削減することができます。また、IoTセンサーやGPSなどを用いることで、車両の運行状況やリアルタイムな交通情報に応じた最適なルートを選べるようになり、渋滞や不要な走行を回避することで燃費の改善にもつながると考えられます。
ラストワンマイル配送の効率化
物流の中でもCO2排出量が多いとされるラストワンマイル配送の効率化は、CO2削減において特に重要となります。とりわけ、都市部での配送は多頻度小口配送による非効率性や交通渋滞が課題となっており、電動アシスト自転車やドローンといった新しい配送手段の活用が検討されています。これらの取り組みは環境負荷の低減だけでなく、人手不足の解消にもつながると期待されています。
混載便・共同配送による効率化
車両の走行距離総量を減らすこともCO2排出量削減に有効な手段であり、多くの企業で取り組みが進められています。その一つとして「混載便」や「共同配送」による配送効率の向上が挙げられます。複数の荷主の荷物を一台のトラックに積み合わせて輸送することで積載率を向上させ、トラックの走行回数を減らすことが可能となり、燃料消費とCO2排出量を抑えることができます。
カーボンニュートラルの実現に向けた企業の取り組み事例
ヤマトホールディングス株式会社様
ヤマトグループ様では、「2050年温室効果ガス自社排出量実質ゼロ」に向け「2030年温室効果ガス自社排出量48%削減(2020年度比)」を目標とされており、EVや太陽光発電設備の導入、ドライアイス使用量ゼロの運用構築、再生可能エネルギー由来電力の使用率向上など各種施策を推進されています。
2023年5月には幹線輸送での脱炭素の取り組みとして、東京-群馬間での燃料電池トラック(FCV)の走行実証を行われており、FCV普及に向けた車両開発やサステナブル社会の実現へと貢献されています。また、運輸業界における脱炭素化の課題解消に向けて、独自のエネルギーマネジメントシステムの開発やカートリッジ式バッテリーの開発・実証、EVライフサイクルサービスの提供なども進められています。さらに、2024年5月には共同輸配送プラットフォームを設立されるなど、企業間の垣根を越えた物流効率化の取り組みも推進されています。
参考:ヤマト運輸株式会社.“「持続可能な物流の実現に向けたヤマトグループの取り組み」”. 国土交通省. 2024年10月17日.https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001769082.pdf, (参照2025年6月11日)
センコーグループホールディングス株式会社様
センコーグループ様では、主体的に取り組むべきScope1+2において、2050年にカーボンニュートラルを目指すことを宣言されており、物流事業・非物流事業双方において温室効果ガス削減に向けた取り組みを進められています。
具体的には、物流事業においては環境優良車両や船舶、クリーン燃料の導入や物流オペレーションの高度化などを進め、サステナブルな成長を目指すとしています。非物流事業においては、再生可能エネルギー電力の調達・購入や、省エネ設備や機器の導入・転換などを進められることで、効果的な温室効果ガス排出量の削減と事業の成長・拡大を図られています。
参考:センコーグループホールディングス株式会社.“「統合報告書 (2024年版)」”.センコーグループホールディングス株式会社. 2024年9月.https://www.senkogrouphd.co.jp/sustainability/report/pdf/senko_report_2024_a3.pdf, (参照2025年6月11日)
アスクル株式会社様
アスクル株式会社様は、2016年に「2030年CO2ゼロチャレンジ」を宣言されており、2030年までに全事業所や自社グループの配送用トラックから排出されるCO2をゼロにするため、電気自動車や再生可能エネルギーの導入など、サプライチェーン全体での取り組みを進められています。また、環境長期目標として2050 年までの「ネットゼロ」を掲げられており、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量削減に向けて、サプライチェーン排出量の約70%を占める工程に着目し、仕入商品における温室効果ガス排出量の算定を開始されています。サプライヤーから収集した一次データを使用し、サプライチェーン温室効果ガス排出量算定ツールを活用。CO2排出量を見える化することで、各商品の排出量削減に向けた具体的な検討へとつなげています。
参考:アスクル株式会社.“「アスクルが目指す環境経営」”.アスクル株式会社.https://askul.disclosure.site/ja/themes/90, (参照2025年6月11日)
参考:アスクル株式会社.“「ASKUL Report 2024」”.アスクル株式会社.2024年12月2日.https://www.askul.co.jp/corp/assets/pdf/ir_2024j.pdf, (参照2025年6月11日)

カーボンニュートラル実現に向けた支援策
先述の通り、日本においても2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、社会全体で温室効果ガス削減に向けての取り組みが行われています。こうした中で、物流業界においても取り組みの推進に向けた体制の構築や支援が進められています。
グリーン物流パートナーシップ会議
国土交通省では、経済産業省、一般社団法人日本物流団体連合会、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会、一般社団法人日本経済団体連合会と連携して、2005年4月に「グリーン物流パートナーシップ会議」を設立しています。
単独では困難であるグリーン物流の実現に向け、荷主企業や物流事業者が「パートナーシップ」を組み、産業横断的に協働してグリーン物流を進めて行こうとするもので、2025年3月現在では3,300を超える企業等が会員登録をしています。
これまでに、計23回の「グリーン物流パートナーシップ会議」が開催されており、学識経験者の講演やパネルディスカッション、優良事例の紹介、優良事業者への大臣表彰等が実施されています。
国土交通省「グリーン物流パートナーシップ会議」https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/GreenLogisticsPartnership.html
物流脱炭素化促進事業(国土交通省)
地域の集配拠点や倉庫、トラックターミナル等の物流施設等において、物流の脱炭素化促進に資する取り組みを実施するための水素および大容量蓄電池等を活用した再生可能エネルギー電気の利用に必要な設備や、それらを利用する車両等の導入を行う事業に要する経費の一部を補助するもの。
令和7年度 申請期間: 2025年5月13日(火)14:00~6月12日(木)16:00まで(申込期間終了)
*令和5年度から毎年公募されています。令和8年度も5月中旬頃に募集が開始される可能性が高いと考えられます。
補助対象事業者:
倉庫事業者、貨物運送事業者、貨物利用運送事業者、トラックターミナル事業者等
補助対象経費(補助率):
1.水素を活用した取り組み
物流施設等における水素利用関連設備(水素製造設備、水素貯蔵設備、水素充填設備、物流業務用FCV車両等)の一体的な導入に係る経費
【補助率:1/2以内、上限額:2.5億円】
2.再生可能エネルギーを活用した取り組み
物流施設等における再エネ利用関連設備(太陽光発電施設、大容量蓄電池、EV充電スタンド、物流業務用EV車両等)の一体的な導入に係る経費
【補助率:1/2以内、上限額:2億円】
*上記1・2に付随して実施される先進的取り組みに必要な機器類の導入経費についても補助対象となります。
*詳細は公募要領等をご確認ください。
公式公募ページ:https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000887.html
モーダルシフト等推進事業(国土交通省)
温室効果ガスの排出削減、流通業務の省力化による持続可能な物流体系の構築を図るためのもの。今年度事業では貨客混載をはじめとするラストワンマイルの配送効率化について過疎地域以外の取り組みも補助対象に追加されています。
令和7年度 申請期間: 2025年4月8日(火)~6月6日(金)17:00まで(申込期間終了)
*例年の実績から、7月・9月に追加公募が行われる可能性が高いので、続報をお待ちください。
補助対象事業者:
荷主及び物流事業者等物流に係る関係者によって構成される協議会
補助対象経費(補助率):
1.総合効率化計画策定事業
定額・上限200万円 + 最大1/2・上限300万円※ =上限総額500万円
2.モーダルシフト推進事業・幹線輸送集約化推進事業・ラストワンマイル配送効率化推進事
業・中継輸送推進事業
最大1/2・上限500万円 + 最大2/3・上限500万円※ =上限総額1,000万円
※下線部が、省人化・自動化に資する機器導入等の計画、実際に当該機器を用いて運行する場合の補助上限と補助率
*詳細は公募要領等をご確認ください。
公式公募ページ:https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/content/000348226.pdf
CO2排出量や各種改善指標を可視化する「Loogia(ルージア)アナリティクス」
弊社では、配車計画の作成だけでなく、配送状況をリアルタイムに把握できる動態管理機能と、さらにその実績を元に改善指標を可視化する分析機能も提供しています。

分析機能である「Loogia アナリティクス」は、ドライバー用アプリから取得した配送実績データを活用することで、ドライバーや車両ごとの生産性、訪問場所ごとの実際の滞在時間など、多角的な分析を可能とするプラットフォームです。
主要指標の可視化とデータドリブンな課題の特定が可能に
ドライバー用アプリを利用し、配送先ごとの業務履歴や走行データを自動で取得。集積したデータを自動で分析し、ダッシュボード上に主要指標ごとに可視化することで、課題をデータドリブンに特定することができます。予実差の要因やボトルネックが明確となることで、改善ポイントを次の配車計画へと反映することができます。
PDCAサイクルの加速と業務効率化による収益性向上へとつながる
高精度な配車計画の作成を可能とする「Loogia 配車作成」と「Loogia 動態管理」を連携し集積したデータを分析することで、改善効果の高い打ち手を特定し、物流改善のPDCAサイクルを効果的かつ継続的に回し続けることができます。
これにより、継続的な物流コストの削減や営業利益率の向上、そして収益性の向上へとつながることも期待できます。
「Loogia アナリティクス」の活用で、物流最適化とカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを推進
荷主企業に物流統括管理者の設置が義務化される2026年度を目前に、物流オペレーション効率化にむけた現場改善や実績の把握・管理体制の構築が急務となっています。「Loogiaアナリティクス」では、実績単体の取得ではなく、配送先情報を持つ配車計画から実績まで一連のデータを紐づけて管理・自動分析することで、分析やレポーティングの負荷軽減だけでなく、より明確で現場に即した課題の特定・データに基づく意思決定の実現を支援いたします。
実車率、コース採算性、積載率、遅配率、作業完了率など各種指標に加え、CO2推定排出量も可視化することができるため、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みにも有効な手段としてご活用いただけます。
まとめ
当記事では、カーボンニュートラルの実現に向けた物流業界の現状や課題、企業の取り組み事例等をご紹介いたしました。
物流業界におけるCO2削減の取り組みは、日本全体の脱炭素化に大きく影響するものであり、2050年のカーボンニュートラル実現に向けてさらなる取り組みの推進が求められています。企業単独で対策を講じるだけでなく、サプライチェーン全体を見据えた施策を進めていくことも重要であるといえるでしょう。
弊社開発の「Loogia アナリティクス」は、ドライバー用アプリから取得した配送実績データを活用することで、データ分析に至るまでの大量のデータ連携・紐付けを簡略化することができ、ドライバーや車両ごとの生産性、訪問場所ごとの実際の滞在時間など多角的な分析が可能となります。CO2推定排出量も可視化することができるため、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みにも有効なプロダクトとなっております。ご興味のある方はぜひ下記より資料をご覧ください。