
2025年2月20日、弊社 ビジネスコンサルティング事業責任者 尾崎による『荷主様の物流改革における意思決定シナリオをどのように描くのか』をテーマとしたオンラインセミナーを開催いたしました。
当記事では、定量的な根拠に基づく意思決定を後押しする新たな視点や優先度決めのポイントなどを解説した第一部の内容をまとめておりますので、セミナーにご参加いただけなかった方もぜひ一度ご覧ください。
第一部 意思決定のためのシナリオ定量分析
物流効率化が求められる背景—法規制・政府方針

今後、法規制や政府方針により、荷主はより一層の物流管理や改善を求められるようになると考えられます。
実際に2024年5月には、流通業務総合効率化法や貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律が公布されており、2025年度には全ての事業者に対し物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務が課され、国が策定した判断基準に基づく取り組みが求められています。また、2026年度には一定規模以上の特定事業者に対する中長期計画の提出や物流統括管理者の選定といった措置、2027年度には法令に基づく定期報告の提出開始が予定されています。
さらに、荷待ち・荷役時間の削減や積載率の向上による輸送能力の増加に対してのKPIも定められており、こうした点からも物流改善に本格的に取り組む国の姿勢がうかがえます。
物流統括管理者に求められる役割

昨今、「物流統括管理者」というワードが業界内でも頻繁に取り上げられるようになりました。この「物流統括管理者」はいわゆるCLO(Chief Logistics Officer)であり、単なる業務管理者ではなく、経営に携わるポジションとして物流を起点に企業経営を改善していく役割が求められます。これまでの「物流業務を単に管理すれば良い」という考えから一歩進み、経営視点から物流にアプローチしていく必要性が高まっています。
物流統括管理者の役割としては、次の5つが重要なポイントとなります。
1つ目は、経営層や投資家に対し、データに基づいて物流の流れやサプライチェーンの全体像を的確に説明し、判断や意思決定を促すことが求められるということです。
2つ目としては、単なる物流現場の改善にとどまらず、事業戦略全体とロジスティクスとの整合性を図ることが重要となります。営業や調達などの関連部門とも連携し、売上向上やコスト削減といった経営上の成果に貢献する体制を構築していく必要があります。
3つ目として、取り組みによって得られるコスト削減やROIの効果を可視化し、投資判断に足るかどうかを明確にすることが求められます。
4つ目は、現在のように先行きの読めない状況が続く中では、配送が分断されるリスクに備え、レジリエンスの高い輸配送体制を構築し事業継続性を確保していくことが重要となります。そのため、複数のリスクシナリオを想定し、それに基づいたオペレーション体制を整備する必要があります。
最後の5つ目としては、従来の物流コスト削減やサービス品質の向上に加え、ESG経営の視点を持つことです。弊社でも近年多くのお客様から「CO2削減」や「ESG経営への貢献」といった観点でご相談をいただいており、今後ESGに関する取り組みを経営レベルで進めていくことが求められると考えております。
こうした背景を踏まえ、実行に向けたアプローチとしては単なるコスト削減ではなく、持続可能かつ競争力のあるロジスティクス戦略を策定することが重要となります。定量的なデータに基づく意思決定を行い、複数のシナリオを検証しながら合理的な判断と合意形成を図っていくことが、今後の物流改善の鍵となると考えられます。
シナリオ分析のメリット

次に、「シナリオ分析のメリット」について5つご紹介いたします。
まず、1つ目のメリットとしては客観的な意思決定が可能になるということです。物流業務の現場においては、定量的なアウトプットを出すことが非常に難しいというのが実情です。しかしながら、さまざまなステークホルダーや委託先を含む関係者全体と合意形成を行い、合理的な意思決定を行うためには定量的なデータが不可欠となります。
そこで、弊社が提供する輸配送最適化ソリューション「Loogia(ルージア)」を活用することで、さまざまな観点や指標を定量的に数値化し、主観に左右されない合理的な判断を促すことが可能となります。
次に、2つ目としてはリスクの可視化が可能となります。リスクが可視化されることで、その想定に基づく回避策を立てることも可能となります。これはシナリオ分析を通して得られる実務上の大きな利点といえます。
3つ目としては、コスト最適化の可能性が広がるということです。「今後、物流コストの上昇が見込まれる中で、コストを抑えつつサービスレベルや品質をいかに維持していくのか」といった検証をシナリオに基づいて行うことで、物流統括責任者として必要な判断材料を得ることが可能となります。
4つ目はレジリエンスの高い輸配送体制の構築が可能となるということです。先程も述べたように、CLOの役割としては持続可能な物流網の構築に向け、短期的な改善だけでなく自社にとって中長期的に最適なオペレーションとは何かを探っていくことが求められます。日々の改善活動に加え、2〜3年先のあるべき姿を想定し、その実現に向けて複数のシナリオを検証・分析していくということが今後ますます重要になっていくと考えられます。
最後5つ目の環境負荷の低減も非常に重要なテーマとなっています。単にコストを削減するのではなく、環境への配慮という観点からどのような配送体制を構築するのかを考えることも、今後の物流戦略においては不可欠となります。例えば、シナリオ分析を通して「コストは若干上がるが、走行距離を短縮できるためCO2排出量は削減される」といったシミュレーション結果が導き出された場合、この結果を踏まえ、ESGの観点も含めた合理的な意思決定を行うことが可能となります。
Loogiaによるシナリオ定量分析事例
ここからは、弊社が提供する輸配送最適化ソリューション「Loogia」を用いて実際にどのような定量分析を行ったのか、具体的な事例を4つご紹介いたします。
事例1:サービス品質と物流コストの最適バランスを実現したシナリオ分析

1つ目は、昨今の物流費高騰により、「すべてのお客様に対して自社便による高品質な配送を継続することが難しくなってきた」という課題を抱えられた企業様の事例です。
営業部門では、お客様との信頼関係やロイヤリティを維持するためにもサービス品質はできる限り落としたくないという強い思いがあり、「物流費の抑制とサービス品質の維持という相反する課題に対してどのように最適なバランスを取っていくのか」ということを検討するために、Loogiaを活用し最適化計算を行った事例となります。
取り組みの概要
まずは、顧客売上データを基に「優先度パラメーター」を設定しました。こちらの企業様ではこれまですべてのお客様に対し自社便による配送を行っていましたが、売上やロイヤリティの高いお客様を高い優先度に設定し、そちらに対しては従来通り自社便による高品質な配送を継続することとしました。一方で、売上が比較的低いお客様については優先度を下げ、サービスレベルを調整した上で路線便へと切り替える、あるいはサービス品質についてお客様と交渉を行った上で自社便を継続するという対応を採りました。
このように、売上やロイヤリティにより重要度を定量的に可視化し、優先順位に基づいた配送戦略を策定した上で、Loogiaによるルート計算を実施しました。
Loogia活用による成果
Loogiaの自動配車システムは本来、インプットされたデータを基に「全ての配送先の時間指定を満たし、かつ全体の稼働時間を最小化」するような配車計画を作成するものです。しかしこちらの事例では、単なる物流コストの最小化ではなく、顧客ロイヤリティを考慮したルーティングを行うことを目的としました。その結果、売上をベースに定量的な優先度を設定しLoogiaによるルート最適化を行うことで、「優先順位に基づき、営業部門がお客様と直接交渉を行う」といった新たなアクションにもつながりました。物流部門だけでなく、営業部門とお客様との関係構築という点においても有効なツールとしてLoogiaをご活用いただいた事例となります。
事例2:複数のタリフパターンを比較したシナリオ分析

2つ目は複数のタリフパターンを比較・分析し、どの配送形態が最もコストを抑えられるのか検証したいという企業様のご要望に基づき、Loogiaを活用しコスト最小化のシナリオ分析を行った事例となります。
基本的にLoogiaは車両の稼働時間や台数の最小化を目的とするソリューションですが、こちらの事例ではLoogiaの機能を拡張的に活用し、複数の配送パターンにおいてコストを算出し、それらを比較したものとなります。
取り組みの概要
まずは、「キャリア(車両とドライバーのセット)」に対して、コスト情報を含む定量的なパラメーターを設定しました。自社便の場合には、1配送ルートごとに最大移動距離やそれを超えた際の上乗せコスト、1時間あたりの稼働コスト、キャリアの移動距離に関わるコストなどを具体的な数値として入力。傭車に関しては、契約に基づき一定の金額で稼働するため、移動距離などによる追加コストは基本的に発生しないという前提で設定しました。
このように、コスト構造の異なる複数のキャリア条件を設定した上で、「自社便のみでの運用」「自社便と傭車の併用」「傭車のみでの運用」の3つのパターンでLoogiaによるシナリオ計算を実施しました。
Loogia活用による成果
こちらの取り組みは、コストを最小化するパターンを分析するためにLoogiaを用いた事例となります。結果としては、自社便を活用した方が1日あたりの配送コストをより抑えられる可能性が高いという結論に至りました。このようにコストの観点から自社便・傭車・路線便など配送形態の使い分けを検討し、最適な運用戦略を策定できるよう、Loogiaをご活用いただくこともできます。
事例3:グループ統合・共同配送・ネットワーク再編に向けたシナリオ分析

3つ目は、グループ内のオペレーション統合、同業他社との共同配送、配送ネットワークやデポの見直しといった「事業環境の変化に応じた統合施策」に向けてLoogiaを活用し、さまざまな配送パターンを検証した事例です。
複数の選択肢がある中で「どのパターンがコストを最小化できるのか」、「どの組み合わせであれば、現実的にオペレーションとして機能するのか」といった観点からシナリオを設定し、定量的に比較・分析を行いました。
取り組みの概要とLoogia活用による成果
まずは、左図の「帯最適化」と呼ばれる「便の組み合わせ」についての検証です。具体的には、午前中に稼働している便と別の車両で午後に稼働している便があるときに、それらを1台でまとめて運行できるかどうかシミュレーションするものです。便ごとの配送の順番は維持したまま、時間帯の異なるルートを統合する場合にコストや運行上の妥当性はあるのかをLoogiaで検証することで、再編後の運用可否を可視化しました。
次に、右図の「エリア区分の見直し」についてですが、将来的に配送件数や荷量が減少するようなケースを想定し、現在のネットワーク構成がそのままで適切かどうか、あるいは別のネットワーク構成の方が効率的かを複数パターンで分析したものです。これにより、荷量の変動に応じた最適な配送ネットワークを再設計するヒントを得ることができ、ネットワーク再構築の意思決定にもつながる取り組みとなりました。
事例4:リソースキャパシティに基づくオペレーションに向けたシナリオ分析

4つ目の事例では、将来の物流オペレーションおよびサプライチェーンの継続性を検証するために、Loogiaを用いてシナリオ分析を実施しました。
こちらの取り組みの背景には、深刻化する人材不足や採用難の問題がありました。今後、車両や人員といった配送リソースの大幅な増加が見込めない中で、「今あるリソースで、将来的にどこまでの売上拡大に耐えられるのか」「耐えられない場合、どのオペレーションを変えることで対応可能か」といった点を定量的に検証することとなりました。
取り組みの概要とLoogia活用による成果
まず、「現在のリソースでどこまで売上や配送件数が増加しても対応できるのか」、「リソースが不足した場合、どのオペレーションを変更すれば再び対応可能になるのか」といった複数のシナリオを設定し、車両台数や走行距離といった定量的なデータを基に比較・検討を行いました。その結果、既存のリソース、もしくはより少ないリソースでも多くの配送が可能だという定量的なデータを得ることができました。
しかし一方で、オペレーションの変更といっても、それを現場で実行するには一定のハードルがあるものです。そこで、こちらの取り組みでは、数値的な効果に加えて「導入障壁が低いシナリオはどれか」という点も加味して評価を実施。導入障壁の低いシナリオをベースに現場で実地検証を行う前段階の検証・分析にLoogiaを活用いただきました。
Loogiaを活用し、より戦略的な物流改革の実現を—

弊社では、企業様のより戦略的な物流改革を支援するべく、各種プロダクトを開発・提供しております。
今回ご紹介した事例はすべて「Loogiaコンサルティング」という伴走型コンサルティングサービスで実施したものです。弊社がお客様と一緒に、特定のプロジェクトにおいて明確な目的やゴールを定め、分析など実際の作業を進めていく形で取り組んでおります。
もちろん、なかには「今後は自社内で分析やシミュレーションを進められるようにしていきたい」とお考えになるお客様もいらっしゃいます。そのようなニーズにもお応えできるよう、分析の内製化を支援するサービスもご用意しております。例えば、初期の段階では「Loogiaコンサルティング」をご利用いただき弊社とともにプロジェクトを進行していき、その後は徐々にお客様自身が主体となって分析を実施できるようサポートをさせていただくというように、段階的に内製化を進められるようご支援をさせていただきます。
このように、弊社ではソフトウェアの提供にとどまらず、物流を最適化し、物流の柔軟性を高めてサプライチェーン全体の価値を向上させるようなご支援をしていきたいと考えております。
さいごに
当記事では、弊社 ビジネスコンサルティング事業責任者 尾崎より解説いたしました「意思決定のためのシナリオ定量分析」についてポイントをまとめてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
「Loogiaコンサルティング」の詳細につきましては下記にてご紹介しておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。